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第52話 人類の滅亡を防ぐ方法

last update Last Updated: 2025-04-11 08:44:58
賢者は、「こういうときはね」と笑顔を浮かべる。

「次元を部分的に塞いで、過去からの影響を未来人たちに流れないようにしたらいいんだよ。そうすると、未来人はそのまま残って周囲の環境だけが変わるから。でも、そこで未来は分離するね」

説明がまったく理解できず、穂香は固まった。代わりに、生徒会長が質問してくれる。

「分離というと?」

「【人類が滅亡しそうでそれを回避した未来】と、【君たちがこれから作っていく、まったく別の未来】の2つに別れちゃうってこと。この2つはとても似ているようで別物だから、まぁ並行世界ってやつだね。でもさ、次元の穴を塞ぐなんて、そんなことできるの、私くらいだと思うけどなぁ? 私だけじゃ、未来人全員は救えないよ?」

先生が「こっちの世界には、それができる一族がいるんだよ。な?」と、穴織を見た。

「そう、ですね……。一族全員でやれば、できるかもしれません。絶対にできるとは言えませんが、白川さんへの恩返しのために、全力でやります!」

「方法や具体的な指示は賢者が出す。穴織の一族には、おまえから話しをつけてくれ」

「分かりました」

穴織の胸ポケットから『もちろん、わしも協力するぞ』としわがれた声が聞こえてくる。とたんに賢者の瞳が輝いたので、彼にも話す武器の声が聞こえているようだ。

先生は、賢者に向き直ると「何をどこまでやれば、未来を分離できる?」と尋ねた。

「それだけど、こっちの世界は、科学にだけ特化して滅びそうなんだよね? でも、私がいる世界は、魔法にだけ特化してて、こっちはこっちで、もうそろそろ限界なんだよ」

「そうなのか?」

深刻な先生に、賢者は「だからさ、この際、滅びそうな2つの世界を混ぜちゃわない?」と満面の笑みを浮かべる。

「例えば、こっちにドラゴンでも召喚して、向こうには科学で作った巨大なものを飛ばすとか、どう!?」

「世界中が大混乱に陥るだろうな……。まぁ、そこまでしないと、ハッピーエンドにはたどり着けないということか」

ため息を着いた先生は、生徒会長に視線を送る。

「おまえのほうで、なんとかできるか?」

「はい。都合が良いことに、ちょうど今、父が僕への罪悪感に苦しんでいるんです。『なんでも願いを言いなさい』と言うほどに。そこを利用して、混乱を最小限に抑えるために裏から手を回します」

「頼もしいな」

先生に肩を叩かれた生徒会長は、ニッコリと笑う。
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    穴織の姿が見えなくなると、風景が変わる。【同日 夜/自室】(あれ? 次の日まで飛ぶかと思ったら、まだ夜だ。ということは、何かイベントが起こるかも?)しかし、もう夜も遅いので、涼はもちろんのこと、サポートキャラのレンもいない。(私は何をしたらいいの?)部屋の中を見渡すと、机の上におまじないの紙を見つけた。(これ、前に使ったやつだ。おまじないは、この紙を学校のどこかに埋めたら終わりって涼くんが言ってたっけ)ということは、このおまじないは、まだ終わっていないということ。(もしかして……)穂香は使用済みのおまじないの紙を枕の下にもう一度入れた。ベッドに入り、目をつぶるとすぐに意識がまどろんでいく。*【夢の中】教室に、白い制服を着た涼が立っていた。それは、昨日見た夢とまったく同じ光景だった。(やっぱり! このおまじない、まだ終わってなかったんだ!)長い赤髪が風に揺れている。光る武器を持ち佇む涼は、穂香に気がついていない。『来たのか、娘よ。確か名は穂香じゃったかの?』「はい。えっと、あなたは涼くんのおじいさん、ですよね?」『まぁ、そんなものじゃな。おぬしには、特別に【おじいちゃん♡】と呼ばせてやろう』冗談なのか本気なのか分からないので、とりあえず穂香は「あ、ありがとうございます」と返した。「じゃあ、おじいちゃん。涼くんは、どうしたんですか?」

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    「穴織くん、いらっしゃい。ど、どうぞ」「……お邪魔します」脱いだ靴を綺麗にそろえるところに、穴織の育ちの良さがうかがえる。 「私の部屋は2階で……」「あの、白川さん。今、部屋の中に、レンレンがいたような気がしてんけど?」「あ、うん。ちょうど遊びに来ていて……」穴織は「白川さんの、その発言が嘘じゃないことに驚くわ」とため息をついた。「と、言うと?」「だって、白川さんは今日、学校を早退したんやで? 俺も今、抜けてきたところやし…。レンレンがここにおるの、おかしくない?」穴織に嘘はつけない。穂香は本当のことを言うしかなかった。「そのことだけどレンは、登校したら私達が校門で話していて怪しかったから、今日は学校を休んだって言っていて……」「ふーん」こちらに向けられた探るような眼差しがつらい。「わ、私の部屋はこっちだよ」部屋に案内すると、部屋の中からレンが良い笑顔で手を振った。「穴織くん、いらっしゃい」「うぉい!? 白川さんの部屋やのに、自分の部屋のごとく、めっちゃくつろいでるやん!?」穴織からのツッコミを、レンは「穂香さんとは、幼馴染ですので」の一言で片づける。穂香も「本当にレンは、ただの幼馴染で……」と伝えると、穴織に「分かっとる、分かっとるけど……幼馴染って、こんな距離感が普通なん?」ともっともな質問をされてしまった。「さ、さぁ?」

  • 恋愛ゲームの世界から脱出する方法はイケメンからの告白!?   《09番外編》もし、穴織と恋愛していたら⑧

    穴織は「ところで……」と咳払いをする。「さっきも聞いたけど、白川さんは見えないものが見えるだけじゃなくて、ジジィの声も聞こえてるねんな?」探るような視線を向けられた穂香は、素直に「うん」とうなずいた。「え? マジで?」サァと穴織の顔から血の気が引いていく。「俺、なんか変なこと言ってなかった?」「ううん、言ってないよ。でも、穴織くんって何者なの? 嘘が分かるっていってたよね?その『ジジィ?』さんも……」穴織が「あ、あー……」と言いながら困ったように頭をかいた。「うん、まぁ、全部は話されへんけど、話せるところは話すわ。でも、ちょっと待ってほしい。今は、この学校で起こってることを調べなアカンから……」「分かった。私は帰ったほうがいいかな?」「うん、そのほうが助かる! あとで電話するわ」明るい笑顔で手をふる穴織に、穂香が手を振り返すと風景が変わった。【同日 昼/自室】(あっ、学校から家の自室まで飛ばされてる)レンが「おかえりなさい」と微笑んだ。「穂香さん、今日は早かったですね。学校を早退してきたんですか?」「うん。今、学校でおかしなことが起こっていて。って……レンはどうしてここにいるの!?」「登校したら、校門であなたと穴織くんがバラがどうとか言っているのを聞いて、何かヤバそうだなと思い、即、帰宅しました」「……そこは、私のために『サポートしてやるか』的な流れにはならないんだね」

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